『キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS』前日譚
一直線にドレスデンゴールへ伸びる
シュナイダー渾身のファイヤーショット。
その軌道にハイネが飛び込んでいく。
「ドイツナンバーワン選手はこのオレだァ!!」
ベストのタイミングでハイネの足が火の玉を捉えた。
(やった! もらったぞ!)
ハイネが心中で歓喜の叫びをあげた。
と、ハイネの足首を冷たさにも似た白い灼熱感が突き抜けた。
(なんだ……?)
次の瞬間、ハイネの目には緑のピッチが映っていた。
(あれっ!?)
青空、スタジアムの観客……視界がぐるぐると回る。
そして強い衝撃とともにピッチと目線が垂直になった時、
ドレスデンゴールのネットを突き破って
背後の壁に突き刺さったサッカーボールが見えた。
ピッチに倒れこんだハイネの耳に、
スタジアム中から沸き起こった割れんばかりの大歓声が聞こえた。
「すごい……すごい!!」
「これがシュナイダー!」
「“若き皇帝”カール・ハインツ・シュナイダー!!」
(そうか……打ち返すのに失敗して同点にされたんだ)
ピッチで頭を打ったせいだろう。
ぼんやりとした感覚の中で、そのことがハイネにはわかった。
「ハイネ! 大丈夫か!?」
駆け寄ってくるザウアーたちチームメイトの声を聞き、ハイネは我に返った。
「え、ええ。大丈夫ですよ」
軽く頭を振り、上半身を起こして応えるハイネに
チームメイトたちは安堵の表情を見せた。
「ものすごい勢いで空中に飛ばされたから、心配したんだぜ」
「ファイヤーショットを打ち返そうだなんて、無茶にもほどがあるぞ」
「いやァ、できると思ったんですけどねェ」
ハイネは悔しそうに頭をかき、チームメイトたちに笑顔を向けた。
「まァ、まだ同点です。またオレが勝ち越しのゴールを……」
だが、ハイネが立ち上がろうとして右足をピッチについた瞬間、
不意に体勢を崩して再び倒れこんだ。
「ハイネ!?」
「あれっ? おかしいな」
ハイネはまた立ち上がろうとした。だがやはり立てない。
右足首から下の感覚がほとんど無かった。
「なんで、なんでだ?」
「誰か、はやく担架を!」
ランケが呼び、ピッチサイドから担架が向かって来た。
「いや、いらないですよ! オレはまだやれますって!」
これまで強気と余裕の態度を崩さなかったハイネが、初めてうろたえた。
「オレはこれまで今日の試合のために戦ってきたんですよ!
それをこんなところで!!」
しかし、チームメイトたちはハイネを押しとどめた。
「いくらなんでもムリだ。立てすらしないじゃないか」
「気持ちはわかるけど、一度ドクターに見てもらえよ」
「大丈夫。おまえがいない間は耐えきってみせる」
仲間たちの言葉に、ハイネはため息をついた。
「わかりました。じゃ、すぐ戻ってきますんで!」
ハイネは治療を受けてすぐにピッチに戻るつもりだった。
しかしベンチサイドでハイネの足首を診察したスタジアムドクターは
首を横に振った。
「これは、もう出場はムリだな」
「そ、そんな!? 痛みもないのに!?」
「痛みだけじゃない。感覚もほとんど無いだろう。これはかなり危険だ。
無茶をすれば取り返しがつかないことになる」
「それでもかまいませんよ!」
ハイネは激しい口調で食い下がった。
「オレのドイツナンバーワンになるっていう夢が……
優勝してドレスデンのみんなに喜んでもらおうっていうオレたちの夢が、
今日の試合にかかってるんです!!」
だが傍らに来ていたドレスデンの監督が首を横に振った。
「ダメだ。おまえのサッカー人生を危険にさらすわけにはいかん」
「監督!!」
「おまえはよくやった。後はチームメイトを信じろ」
ドレスデンの監督はそう言い残すと、
ちょうど試合が途切れたところで主審を呼び、ハイネの交代を告げた。
それを受けて控え選手が交代位置についた時、
ハイネはがっくりと肩を落とし、手に触れた芝生を引きちぎった。
「ちくしょう……ッ!」
ハイネは押し殺した声でうめき、数度の深呼吸をして、立ち上がろうとした。
「ハイネ、何を?」
驚く医師と監督にハイネは毅然と胸を張り、言った。
「キャプテンマークを渡すんですよ。
それも……キャプテンのつとめですから」
ハイネは控え選手の肩を借りて立ち上がり、
駆け寄ってきたザウアーにキャプテンマークを手渡した。
「オレたちの夢を、お願いします」
「任せとけ。いつもおまえに頼りきりだったんだ。
今日はおれたちだけでなんとかしてみせるぜ」
キャプテンマークを腕に巻いたザウアーがポジションに戻っていった。
それを見送ったハイネが担架に乗せられ、
スタジアムの奥の医務室へと運ばれていく。
「よくやったぞ!」
ハイネに降り注ぐ観客の声と拍手。
ハイネは失意を隠し、むりやり微笑んで手を振ってみせた。
ドレスデンイレブンは新たにキャプテンマークをつけたザウアーが
声をあげて意思を統一し、気合を入れ直した。
「みんな! ハイネの分もおれたちが頑張るんだ!」
「おう!」
「最悪、同点PKだっていいんだ!」
ハイネを失ったドレスデンイレブンは
全員でそれをカバーしようと奔走した。
だがハイネのいないドレスデンと
ベストメンバーのハンブルクでは力の差は明らかだった。
「カルツのパスコースを塞ぐんだ!」
ザウアーの指示にドレスデンの選手が走る。
だが、まったく意図の読めないカルツのプレイに
ドレスデンは振り回された。
「ほらよっ、こっちだ!」
「しまった!?」
中盤はもうハンブルクのものだった。
ことごとくディフェンス網の裏をかかれ、
ほころびの部分から陣形をあっという間に食い破られる。
一方的に攻め立てられるドレスデン。
それでも彼らは必死に守り続け、ハンブルクの攻撃をよくしのいだ。
しかし、それもシュナイダーにボールが入るまでのことだった。
「HA!!」
シュナイダーの声とともに繰り出されたシュートが火の玉と化し、
ドレスデンゴールを襲う。それを防ぐ術はもうなかった。
後半15分、シュナイダーに今日2点目を許し、
2分後にはクラウスにもゴールされて追加点を奪われ、
そして後半27分にはシュナイダーにハットトリックを達成させてしまった。
後半アディショナルタイムに入り、スコアは4対1。
ドレスデンにとって試合はもう絶望的であった。
「一点でも返して、おれたちの意地を見せる!!」
それでも、ドレスデンは最後の最後まで力の限り走り続けた。
「くらえ、ワカバヤシ!」
そしてランケがロングシュートを放つ。
しかし意地だけで打ったシュートが通用するはずもなく、
若林に易々とキャッチされた。
そして試合終了のホイッスルがスタジアムに鳴り響いた。
「やった! やったァ! おれたちの優勝だ!!」
ハンブルクイレブンは両手を挙げてピッチ上を駆けまわって優勝を喜んだ。
歓喜の輪の中でシュナイダーは
満足げな笑顔で右手を強く突き上げ、小さくつぶやいた。
「父さん、母さん、マリー……おれはやったぞ」
一方、ピッチ上で膝に手をついて落ち込んでいるドレスデンイレブンのもとに、
控え選手の肩をかりてハイネがやってきた。
右足首に患部を冷やすための冷却剤が分厚く巻かれている。
「ハイネ、すまない。こんな結果になっちまって」
「いえいえ。ケガしたオレが悪いんです。
オレがシュナイダーさんに勝っていれば、こんなことには……」
そう言ってうつむいたハイネが、
急に空を見上げてスタジアム中に響くような大声で叫び始めた。
「あァァァァ! ちくしょうちくしょうちくしょう——!!」
その様子に驚くドレスデンの選手たちに、ハイネが言う。
「今は思いっきり悔しがりましょう。
で、この悔しさをバネに、明日からまた頑張っていきましょう!」
「ああ、おれたちは諦めないぞ!」
「ドレスデンの街をドイツサッカーの象徴にするっていうオレたちの夢!」
「これからもいっしょに頑張っていこうぜ、ハイネ!」
と、そこにハンブルクの選手たちが歩み寄ってきた。
「ドレスデンのみんな、今日はありがとう」
「おれたちがこんなに苦戦したのは初めてだった」
「優勝おめでとう、ハンブルク」
「けど、次は負けないからな」
そこかしこで互いの健闘をたたえ合う両チームの選手たち。
そんな中、ハイネはシュナイダーに歩み寄った。
「シュナイダーさん。優勝おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
「でもオレたちの勝負は、オレがケガするまでは同点だったんだから
引き分けですね」
そう言ってのけたハイネに、若林があきれ気味の顔をした。
「おまえ、シュナイダー並みの負けず嫌いだな」
隣でカルツがうなずく。
「けど、シュナイダーにこれだけ勝負を挑むヤツは初めてだ。
おまえさん、なかなか熱い男じゃねえか。気に入ったぜ」
「ハハハ……そいつはどーも」
ハイネは若林とカルツと握手をかわし、シュナイダーに提案した。
「シュナイダーさん、ドレスデンに来ません?」
驚いたように目を見張るシュナイダーにハイネが笑いかける。
「だって、オレたちが組めば最強ですよ。どうです?」
「フッ、面白いかもしれんが……な」
「やっぱダメか。しょうがない」
ハイネはシュナイダーに握手を求めた。
「ドイツナンバーワンをかけたオレたちの戦いは、
まだ始まったばかりです。
次はオレが勝ちますからね」
「……」
シュナイダーは何も答えずにハイネと握手をかわした。
その時、場内放送で優勝のセレモニーが始まる旨が伝えられた。
「じゃ、次はクラブのヨーロッパ大会ですね。頑張ってください」
「ハイネ」
「なんですか?」
「今度は代表で会おう」
そう言ってシュナイダーはハイネの前から立ち去った。
今年の夏、フランスでジュニアユースの国際大会が開かれるという話は
ハイネも聞いていた。
(代表で会おう、か)
ハイネはシュナイダーの言葉を少し嬉しく感じた。
そして、そんな風に感じたことを悔しいと思った。
●○●○●
「あーあ、めんどくさいなァ」
病院にケガのリハビリに来たハイネは思わずぼやいた。
試合後に行った精密検査で、ハイネの右足首のケガは
思っていたよりもはるかに重傷だったことが判明した。
「骨、腱、筋肉……。
足首全体へのダメージは相当なものだね。これは時間がかかるよ」
診察した医師の説明を受けた時、ハイネは驚いた。
「そ、そんなにですか?」
医師はうなずき、やや首をかしげる。
「けど、シュートを受けただけでは、これほどのケガにはならない。
試合前から痛みとかはなかったかい?」
「ええ、まァ、多少はありましたよ」
ハイネには思い当たる節もあった。
「オレはチームのエースですから、大会中もずっと削られてましたもん」
「確かに削られるのはエースの証拠だが、
だからこそ、足の状態を軽く見ていたのはいただけないな。
そのダメージが蓄積していたからこそ、ここまでのケガになってしまったんだ」
「うーん……反省します」
そしてハイネは、またサッカーができるようになるまでの時間を医師に尋ねた。
「順調にいって、半年かな」
返ってきた答えにハイネはショックを受けた。
「そんな! それじゃフランスの大会に間に合わないじゃないですか!」
「もちろん回復力は人それぞれだ。
もっと早く治るかもしれないし、そうではないかもしれない。
ただ言えるのは——」
医師は検査結果のレントゲン写真などを片付けながら言った。
「治療とリハビリを真面目にやることだね。それしか道は無い」
そしてハイネは医師の言いつけを守り、日々病院に通い、
治療とリハビリに励んでいるのだった。
だが真面目に治療に当たっても、ハイネのケガの回復は順調とはいえなかった。
痛みがおさまってリハビリに入ると、すぐに痛みがぶり返す。
この繰り返しであった。
(またサッカーをするためだ、地味だけど仕方ない。
それにファンの女の子たちも待っているし、
それに応えるのがスターのつとめだ!)
実際、ドレスデンのクラブハウスには
ファンの女の子から手紙やメールが相次いでいて、
ハイネの励みにはなっていた。
(とはいえ、こうも治らないとな……
やっぱ心が折れそうになるよ)
この日もハイネは診察を終えてリハビリルームに向かっていた。
その途中、病院にやってきた患者が集まるロビーを通りかかった時、
モニターでサッカー中継がやっているのが目に入る。
(あれは、シュナイダーさん)
ちょうどジュニアユースのヨーロッパ大会の決勝が終わり、
ハンブルクが優勝したところだった。
優勝カップをかかげるシュナイダーの姿を見た時、
ハイネの胸に祝福と同時に嫉妬がわき上がった。
(あそこに立ってるのはオレだったかもしれないんだよな……)
やがてシュナイダーのインタビューが始まった。
「優勝おめでとうございます。
ヨーロッパの王者になった気分はどうですか?」
「もちろん嬉しいですが、満足はしていません」
「それはどうして?」
「自分は日頃から〈世界ナンバーワン〉になることを目指していますから」
(世界ナンバーワン……?)
ハイネは不意にめまいを覚えた。
(オレはドイツナンバーワンを目指して、
あんなに必死になったのに、そっちは世界ナンバーワンだって?)
自分があれほどこだわった座が、シュナイダーにとっては通過点だったのだ。
ライバルと思っていたシュナイダーと自分の差にハイネは愕然となった。
と、モニターの映像がシュナイダーの顔を真正面からとらえるものに切り替わった。
瞬間、シュナイダーの静かだが力強い視線がハイネの目を射貫いた。
(おまえはその程度の男なのか?)
シュナイダーの瞳がそう語りかけているように、ハイネには感じられた。
そしてその時ふいに、シュナイダーが「代表で会おう」と言った本当の意味を理解できた。
(あの言葉は、「もっと大きな目標を持て」っていう、
シュナイダーさんのメッセージだったんだ)
「……オレって、こんなに小さな男だったのか」
ハイネは大きく大きくため息をついた。
(サッカー選手として、一人の男子として、
シュナイダーさんと今のオレは、スケールが違う……)
そう認めた時、ファイヤーショットの強さの一端を理解できたような気がした。
(あの威力は単純にスピードとかパワーだけじゃない。
シュナイダーさんが日頃から持っている気持ちや目標、
覚悟をこめて磨き上げているからこそのものなんだ)
右足首の痛みが、そう言っているようにハイネには思える。
「世界ナンバーワン……」
そう口にしてみた時、胸の内に今までよりも熱い何かが湧き上がるのをハイネは感じた。
(そうだ。シュナイダーさんは今、間違いなくヨーロッパのトップにいる。
そしてオレは、そのシュナイダーさんと互角の勝負をした男。
ならばオレだって、男として世界一を目指すべきだ!)
そうすればドイツ中と言わず
世界中にドレスデンと“ドレスデンの妖精”の名を知らしめられる。
ハイネの心に、炎が燃え上がった。
(うん! やっぱり男子たるもの夢は大きく持たないとな!!
ドイツ、ドレスデン、そしてコルネリアス・ハイネの名前を
〈サッカー世界一〉の代名詞にしてやるんだ!!)
それからハイネは力を入れて治療とリハビリに当たった。
調子の良さは相変わらずだったが、誰もが驚くほど真摯に足首の回復に努めた。
しかし、ハイネの頑張りに体はなかなか応えてくれなかった。
(軽いプレイはできるけど、
キレのある動きをしようとすると当たり前のように痛い。
これじゃあ……)
そうこうしている間にフランス国際ジュニアユース大会の代表選考が行われ、
ケガが治らなかったハイネは代表から落選した。
それをドレスデンの監督から聞かされたハイネは両手で顔を覆って大きく一息はいた。
「そうですか……
いやァ、世界の舞台でオレのプレイが見られないなんて、
みんなさぞかしがっかりするでしょうね」
薄々わかっていたことだったが、あらためて現実になると落胆は大きい。
新たな目標である世界と戦う機会を失ったのもだが、
シュナイダーの言葉に応えられなかったことが悔しくてたまらなかった。
ドレスデンの監督は落ち込むハイネを諭した。
「元々、半年かかるはずのケガなんだ。これで焦らずに治せるじゃないか。
しっかり治して、今後のサッカー人生にそなえてくれ」
だがそれから間もなくして事態が大きく動く。
ある日、ハイネはドレスデンのクラブチームのオフィスに呼び出され、
ジュニアユースチームの責任者から驚くべき話を聞かされた。
「『ジュニアユース・ワールドチャレンジ』?」
「うむ。詳しい事情はわからないが
フランス国際ジュニアユース大会が中止になって、
9月に新たにアメリカで新しい大会が開かれることが発表されたんだ」
「へェ、9月に……」
「新たな大会にはフランスやイタリア、アルゼンチンの他に、
フランスの大会に出ていなかったブラジルやオランダなども出場するそうだ」
「……より大きくて派手な大会になってるじゃないですか」
ハイネは天を仰いだ。
「いいなァ。
そんな大会こそオレの国際デビューにふさわしいっていうのに、
9月じゃなァ……」
フランス国際ジュニアユース大会よりも後の時期になったとはいえ、
9月ではハイネの治療はまだ終わらない見立てだった。
「せめてあと一ヶ月あってくれたらな……」
悔しそうに唇を噛むハイネに、
クラブのマネージャーは手元のタブレットを操作してハイネに見せた。
「これは?」
「実はドイツサッカー協会から、あるスポーツ医療機関を紹介されてね。
もしかするとハイネのケガをもっと短期間で治せるかもしれない、と」
「ほ、本当ですか!?」
「ドイツサッカー協会としても、新たな大会での優勝を目指すに当たって
戦力をより盤石にしたいということで、ハイネの代表入りを希望しているんだ」
「協会もわかってるじゃないですか。
あの面子にオレが入ってシュナイダーさんと組めば、
世界中に敵なんていませんよ」
「……まァ、そんなわけで、
その医療施設に行ってみる気はあるか?」
「ええ、行きます」
ハイネは即答して笑った。
「ダメかと思ったらすぐにチャンスボールが来るなんて、
やっぱりオレって何かを持ってますね!」
「そのかわり、リハビリプログラムは今の数倍はキツいそうだぞ」
「い、いいですよ。
苦難を乗り越えることだって、スターのストーリーには必要ですからね」
少し笑顔をひきつらせたハイネだったが、気を取り直して尋ねる。
「で、そのスポーツ医療施設ってどこにあるんです?
ベルリンですか?」
「いや、アメリカだ」
「アメリカ!?」
ハイネの予想にはまったく無かった答えだった。
「なんでもうちとハンブルクとの試合を見たアメリカのサッカー関係者が、
直々にドイツサッカー協会に医療機関を紹介してきたそうだ。
『あれだけの才能がケガで失われてしまうのは惜しい』とね」
「へ〜、外国の人も虜にしちゃうなんて、やっぱりオレってすごいな」
「試合を見たのはシュナイダー目的だと思うがね」
「なにか?」
「いや……とにかく、ドイツサッカー協会はハイネに一足先にアメリカに行って、
その医療機関で治療を受けてほしいということなんだ」
「代表合宿とかは?」
「アメリカで合流するので問題ないそうだ。
もっとも、全てはケガの治療が大会に間に合えばの話だ」
「……けど、ギリギリまでチャンスをくれるってことですね」
ハイネの目に強い光が満ち、声に希望と闘志が表れた。
「やってやりましょう!
人に期待に応えるのがオレですからね!」
こうして他の代表選手よりも早くアメリカに足を踏み入れることになったハイネ。
ドイツの空港を発つ時、見送りに来てくれたチームメイトやスタッフ、
そしてファンに笑顔で大きく手を振った。
「みんな! オレが帰ってくるまで寂しいと思うけど我慢してくれよ!」
そして機上の人となったハイネは窓の外、遠ざかりゆく街を見ながら、
自分のこれからに思いを馳せた。
(オレは絶対にリハビリをやり遂げる。
そして代表に入って、自分の小ささを教えてくれたシュナイダーさんに
恩返しをするんだ)
自分ならシュナイダーの能力を100%活かせる。
そうすれば世界に敵などいない。ハイネはそう確信していた。
(まずは大会で優勝してドイツを世界一にする)
ハイネは強く拳を握りしめた。
(そうしたら、またシュナイダーさんに挑むんだ。
今度は世界ナンバーワンの座をかけて!)
おわり