fdas

キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS

CHARACTER

『キャプテン翼 RISE OF NEW CHAMPIONS』前日譚

Novel : Episode 0 『アメリカジュニアユース編』

アメリカ西海岸の、とある人工島。

その島の中央に『ジュニアユース・ワールドチャレンジ』のメインスポンサーである世界的IT企業の巨大なオフィスビルが建っていた。
そのビルの下のロータリーに一台の高級車が止まり、車の後部座席から身なりの立派な一人の中年男性が降り立った。

このIT企業の創業者にして社長であるジョージ・カージナルだった。
そのカージナルに、ビルの入り口付近にいた秘書の青年が駆け寄る。

「お帰りなさいませ、社長。日本サッカーの視察はいかがでしたか」
「なかなか面白かったよ。特に中学サッカーは激闘に次ぐ激闘。
あれほど魂を削るような戦いは、どんなスポーツや勝負事であっても、そう見られるものじゃない」
満足げにカージナルは笑った。
「報告にあったツバサ・オオゾラもしっかり見てきたよ。彼は間違いなく天賦の才を持った選手だ。今後マークしていく必要があると確信した」

カージナルと秘書はビルに入り、外の景色が見えるよう素通しになっているエレベーターに乗った。
ドアが閉まり、エレベーターが静かに上り始める。時は夕刻。太平洋に沈んでいく夕陽がまことに美しい。

「何か新しい情報は入っているか?」
「はい。各地のスタッフから、いくつか報告が上がってきています」

秘書は手持ちのタブレットを操作し、画面をカージナルに見せた。
「まずイングランドのスタッフからです。DFのロブソンを中心に守りを固め、サイドからの攻撃で得点を奪うパターンを強化しているとのことです」
「基本に忠実に、己の武器を磨き上げるか。実にイングランドらしい」
「ウルグアイのスタッフからは主力選手であるラモン・ビクトリーノの情報が入っています。
南米でも屈指のスピードとテクニックの持ち主で、大会で大きな注目を浴びるだろう、と」
「ほう。南米の中で飛び抜けているのはたいしたものだ」
「また大会に参加する他の国々のスタッフからも、それぞれ面白いプレイスタイルの選手がいるとの報告が来ています」
「面白い、か。具体的ではないが、だからこそ興味を惹かれるな。しっかりデータをとるよう伝えておけ」
「…あと、先ほど大会委員会より、大会に参加していない国々から視察の申し込みがきているとの報せが」
「ふむ……」
 カージナルは顎に手を当てた。
「そういうパイプは、いずれ必ず役に立つ。全て承知した、と大会委員に言っておこう」

エレベーターがビルの最上階・展望室に到着した。エレベーターを降りた二人は、ガラス張りの壁際に歩み寄った。

眼下にはたくさんのサッカー用の練習グラウンドと、それに付随する宿泊施設、
そして『ジュニアユース・ワールドチャレンジ』の会場である最新鋭のサッカー専用競技場「スタークラウンスタジアム」が夕日の光を浴びて輝いている。
これらの施設はもちろん、この広大な人工島自体が、カージナルと彼の会社の持ち物であった。

その景色を見下ろしながら、カージナルは秘書に問いかけた。
「で、我らがアメリカチームの状況は?」
「はい。万事、順調のようです。詳細なデータはこちらに」
 そう言って秘書がタブレットを差し出した。カージナルはタブレットを手にし、そこに記されているデータを次々と読み取った。

「なるほど……皆、期待通りの成長をしているな」
「はい。他のスポーツから引き抜いてきた子供たちも、完璧にサッカーに順応しているようです」
「それはなによりだ。彼らの成長が今後のアメリカサッカーを左右するのだから」
 そしてカージナルは添付されていた動画ファイルを開いた。そこにはアメリカジュニアユースチームのトレーニング風景が映されていた。
「最新鋭のトレーニングマシーンと最新のトレーニング理論・技術を駆使して鍛え上げる。これからは何事もデータと科学、そして効率だよ」
「しかし社長。そのトレーニングは決して楽ではないのでしょう?」
「もちろんだ」
 カージナルはうなずいた。
「効率よく鍛えるために、従来よりもはるかに密度が濃いトレーニングだ。当然、心身にかかる負担もハードになる」
「そういった大変さを耐える精神力を、メンタルトレーニングで鍛えるのですね?」
「その通り、と言いたいが、実はそこが難しいところでな。特に向上心というやつはトレーニングでは鍛えられないものだ」
 しかし選手たちは歯を食いしばりながら厳しいトレーニングを行い、一人の脱落者も出ていない。

「やはり、彼の影響かな」

動画を見るカージナルの目にとまったのはブレイク・マーティンという選手だった。
アメリカの選手の中でもひときわ立派な体格の彼は自ら率先して体を動かし、檄を飛ばして選手たちを鼓舞していた。
「ブレイクほどのスポーツエリートはアメリカ全土を探してもそうはいない。彼ならば、今のチームのキャプテンもつとまるだろう」
「……こちらの選手も素晴らしいですね。見るからに運動神経が良さそうです」
「シェイク・アズワンか。実力はもちろんだが、彼の代表への執着がチームにもたらすものも大きい」
「そういえば、この動画には――」

と、秘書が言いかけたその時、秘書のスマートフォンが鳴った。
「はい……社長は……そうか、わかった」
「どうした?」
「社長にお客様だそうです」
「サッカーとビジネス、どっちのだ?」
「ビジネスの方です」
「……そうか」
 カージナルはやれやれといった様子で首を振った。
「こういう時、体が二つあればと思うよ。そうすれば私は大好きなサッカーに専念できるのにな」
「しかし、社長がもう一人増えたとしても、そちらの社長も同じことを言うのでは?」
「違いない。解決にはならないな」
 カージナルは苦笑した。
「わかった。応接室にお通ししておきなさい。私もすぐに行く」
「はい」

秘書がエレベーターで去っていき、展望室に一人残ったカージナルは暮れなずむ島の景色とスタークラウンスタジアムを見ながら独語した。
「我らがアメリカの、そして世界の才能ある選手たち。しっかりとデータを取らねばな。大会が今から楽しみだよ」